女性活躍推進=両立支援だけ?
女性活躍推進というと、どんなイメージをお持ちですか?
知人や友人、同業の社会保険労務士に女性活躍推進の話題をだすと、必ずと言っていいほど相手の頭にイメージされるのは「両立支援」です。
育児や介護と仕事を両立させるために「休暇制度を充実させるべきだよね」とか、「長く(育児・介護)休業できるといいよね」といった具合。いかに雇用を継続させつつ働く休めるか?という議論になることが圧倒的に多いのです。
確かに現代の日本人女性は、仕事より家庭のことを優先させる傾向にあります。
そう考えると、時間的な配分を「家庭>仕事」にすること、そして家庭に費やす時間的比重をなるべく大きくすることは、家庭を優先させたい女性が生活する上ではとても大切なことです。
しかし、私は女性が本当の意味で家庭でも仕事でも活躍するためには「両立支援の施策」だけでは足りないと思っています。
M字カーブとL字カーブ
従来の日本では、女性の年齢階級別労働力率をグラフで見ると、20代後半から30代にかけて女性の労働力率が落ち込むいわゆるM字カーブを描いていることが特徴とされ、問題視されていました。
結婚・出産・育児等のために労働市場からいったん退出し、その後育児等が落ち着いた後に再度労働市場に戻ってくるという、女性労働者の就労行動の特徴が反映されています。
ただ、近年においてはM字カーブの底が浅くなってきており、台形型となっています。
これは、女性労働者が結婚・出産・育児等のために労働市場から退出せず労働市場に残っている、つまり会社を退職せずに雇用され続けている状態の女性が増えていることを意味します。
度重なる法改正等で両立支援制度が充実し、会社を辞めなくても育児等ができるようになったことが主な要因とされています。

これに対し、現在問題視されているのがL字カーブです。 L字カーブとは、女性の年齢階級別正規雇用比率が20代後半をピークに低下し、30代40代などは非正規雇用が中心となる状況のことです。

本来は能力や技術・知識等、働くうえで必要な力をもっているはずの女性が、結婚・出産・育児等をきっかけに非正規雇用に転換することによって、本来持っている力を発揮できていない、もしくは発揮する環境にないことが問題視されているのです。
女性が非正規雇用になることへの違和感と問題点
日本は2024年のジェンダーギャップ指数の順位が146か国中118位でした。これは世界的に見て日本がジェンダー後進国であることを意味しています。このジェンダーギャップ指数は経済・政治・教育・健康の各項目でも順位が出るのですが、教育についていえば日本は72位です。
完全平等が1、完全不平等が0で表される中、日本の教育は0.993。近年の日本では、女性が大学進学するのも当たり前になっており、社会に出るための土台の教育に関しては男性も女性もしっかり受けている状況といえます。女性だから能力・技術、知識がないといったことは決してありません。
また、少子高齢社会にある日本では労働力が足りなくなってきており、実際に人手不足に悩む企業が多くみられます。正規雇用で就業していた女性が、働く時間をぐっと減らした非正規雇用になることだけでも、企業にとっては労働力不足に陥りやすくなります。またそれだけではなく、悲しいことに非正規雇用を経て退職してしまう女性も一定数います。
これらはマミートラックと言って、出産や育児をきっかけに女性社員のキャリア形成が阻害されてしまうことが1つの原因ではないかと言われています。
マミートラック
マミートラックは、女性に対するバイアス(偏った認識や思い込み)や長時間労働を前提とした職場環境などが原因で起こるといわれています。
「女性は仕事より育児を優先させるべき」「育児中の女性は負荷のかかる仕事はやりたがらない」などが女性に対するバイアスです。バイアスがかかると、女性の真意とは違った働き方を周り(企業や上司など)がさせてしまうことにつながります。
また、長時間労働が前提の職場環境だと「私には正規雇用で働き続けることができない」と考える女性がいるのも無理はありません。
現状、家庭での無給の仕事である家事労働の大半を担っているのは女性の場合が多いからです。会社で長時間労働をして帰宅したら、無給の家事労働をまた何時間もする…こんなスーパーウーマン、誰しもがなれるわけではありません。
もちろん気持ち的に仕事よりも家のことの比重が大きい女性はたくさんいますので、その人たちを含めすべての人が正規雇用であり続けてほしいということではありません。
「仕事:家庭」が0:10とまではいかなくとも1:9や2:8の人、私が今まで出会ったママ友の中でもたくさんいました。
しかし、仕事をもっと頑張りたい女性は一定数いますし、1:9や2:8の人でも簡単に仕事を辞めることなく、それぞれのバランスで仕事においても活躍できる社会にしていければいいのです。
まとめ
女性活躍推進は「両立支援」だけでは不十分です。
女性個人の人生の充実のためにも、日本経済の発展のためにも、女性が不必要なまでのバイアスを感じることなく、そしてキャリアを中断させることなく、着実にキャリア形成をしていけること。
また、働くことに時間的制約がある時期でも、貢献度合いに応じて適正に評価され、しっかりと働く意欲を持ち続けられること。
これらを叶えることができて初めて「女性が活躍している」と言える状況なのではないでしょうか?
ただ、各企業がこれを叶えるためには相当な時間がかかります。取り組むには企業としての覚悟が必要です。だからこそ、今取り組み始めれば周りの企業との差をつけられますし、少しでも早く実現に近づくのだと思います。